おすすめ度:70%
雨の夜度:100%
心の防御度:100%
原題:계시록 / Revelations (122分)
雨の夜に起こった出来事、ある牧師は啓示を受ける…?2025年のミステリースリラー映画。
あらすじ・キャスト
小さな教会の牧師ミンチャン(リュ・ジュンヨルさん)は、信者である少女を追って教会にやって来たヤンレ(シン・ミンジェさん)が前科者であることを知る。
ある日ミンチャンの子供が失踪した騒ぎの際、彼はヤンレを疑うのだった。
一方、過去の事件をきっかけにヤンレに怒りを抱いている刑事のヨニ(シン・ヒョンビンさん)だったが…。
感想
総合的には盛り上がりそうでなかなか盛り上がらない作品だった、という印象を受けました。
ですがテンポも良かったですし中だるみせずに「どうなるのか…」という感じで集中力をラストまで失うことはなかったです。
ストーリーは興味があるものでしたし、私はそれなりに最後まで面白く視聴しました。
今作はヨン・サンホさんの監督作品ですが、終盤にストレートに「まとめ」的なセリフを入れてあったりと、いつもよりわかりやすい(?)作品だったかなと思えました。
今作でも宗教に絡ませてはありますが、それが主軸というよりはあくまでも人が「何かを信じこむ」ということに宗教を絡ませていているものです。
そんな「人の心の変化」に焦点を当てて描かれている作品でしたので、派手であっと驚かされるようなシーンがあって…というタイプの作品では全くありません。むしろ意外と地味な作品かもしれません。
主人公は教会の牧師ミンチャンです。
人当たりが良さそうな朗らかな雰囲気があるような彼ですが、どこかその笑顔から表面的なものを感じます。
それもそのはず、実はミンチャンは私生活ではドロドロとした感情を抱えている人物であることがすぐに序盤シーンで明かされます。
この牧師ミンチャンが、ある意味で自ら事件に”巻き込まれていく”様、そして泥沼に自らハマってしまいながらも、自己弁護から自己陶酔に変わっていく様…そのような”信じる”ことの恐ろしさを描いているストーリーになっています。
後半のジュンヨルさん演じるミンチャンが「自己陶酔ゾーン」に入って、悦に入る様がハッキリ描かれているシーンがいくつかあるのですが、そのあたりの演技が特にとても素晴らしかったです。
ジュンヨルさんは個人的に好きな演技をされる俳優さんですが、いつも演技が上手いな~と私が勝手に思う俳優さんとして、うさん臭さ、気楽さや軽薄さと真逆の狂気の演技の振れ幅が大きくある人だと思うのですが、ジュンヨルさんも本当にそんな演技をされる方だと思います。
気になった方は視聴してみて下さい。
ゆるいネタバレありの感想
Netflix Koreaインスタグラムより
町の古い雑居ビルの1室にある教会の牧師、ミンチャン。
どうやら信者獲得に必死なようで、見かけない男がこの教会に入ってきたのも見逃しませんでした。
謎の男ヤンレは、教会に通う少女を追って入ってきたのでした。ミンチャンはこのヤンレが前科者だと知りますが、神の愛を説きます。
そんな夜、ミンチャンは妻からの電話に驚きます。幼い娘がいなくなったというのです。ミンチャンはパニックになるのでした。
ミンチャン
実はミンチャンの妻は浮気をしていました。
娘が失踪した日の”用事”も浮気相手に会いにいくのではないのか…?そんな疑いが浮かびます。
妻の「用事」のため、娘が失踪した日に子を園に迎えに行くのはミンチャンの役割でした。しかし彼はすっかり忘れていたのです。
それもこれも、ミンチャンの教会のすぐ側に建設中の新しい大きな規模の教会が原因です。
その新しい教会の牧師は誰になるのだろうか?彼は「もしかしたら自分かもしれない」という淡い期待を抱いていました。しかし、そんな希望も完全に打ち砕かれていたのです。
落ち込んでいたところに、妻からの電話。自分のせいで娘が失踪した…?
ふとここで犯罪者のヤンレの顔がミンチャンの頭に浮かびます。
あいつに違いない!
ミンチャンはヤンレを尾行し、最終的には彼と山の中でもみ合いになるのです。そして…ヤンレは崖から落ちてしまうのでした。
ミンチャンはヤンレの無残な姿を見て、恐怖で震えあがります。
そんな恐ろしさの中にいたミンチャンでしたが、そこで「神からのメッセージ」を「見た」のでした。
ヨニ
刑事のヨニはヤンレに対して特別な恨みの感情を抱いていました。ヨニの妹はかつてヤンレに誘拐されていた被害者だったのです。
ミンチャンの教会に通っていた少女が失踪した事件、ミンチャンからのヤンレについての第一報。過去のおぞましい事件が再びヨニの頭の中に鮮明に思い出されます。
この少女失踪もおそらくヤンレの犯行に違いない、そう考えるヨニ。警察もヤンレにターゲットを絞ります。
死んでしまった妹は常にヨニの”側に”いて、助けを求めています。
アイツを今度こそ絶対に許すわけにはいかない…ヨニはヤンレへの復讐を誓うのでした。
メッセージ
(状況的に)ヤンレを殺してしまったかもしれないと、恐怖にさいなまれるミンチャンが見たものは神イエスの顔とも”おもえる”岩肌の陰影。ミンチャンはハッとします。
しかしミンチャンはその恐怖に耐えられず、翌日、地域をまとめる司祭に事実を告げようとします。
ですが、ここでもミンチャンは顔を「見る」のでした。
まるで渡りに船のような”素晴らしい”オファーと共に…。
ミンチャンはここで自分が犯したこと…、それは「罪ではない」「起こるべきことだった」と思いこんでしまいます。
必然…神からのメッセージ…ミンチャンは自分は選ばれたのだと心酔してしまうのです。
車の中で妻の浮気を問いただし、神に許しを請う場面は彼の矛盾っぷりが狂気じみていて良かったです。
心の防衛
パレイドリア
雲の形から動物、顔、何らかの物体を思い浮かべたり、月の模様から人や兎の姿が見えてきたり、録音した音楽を逆再生したり速く/遅く再生して隠されたメッセージが聞こえてきたり、というものがある
Wikipediaより
ミンチャンは崖の岩肌や、壁と装飾物の並び、壁の汚れから度々イエスの顔を上記の現象の通りにそこに(勝手に)見出し、これと自分の行動を結びつけて自らの罪を自己正当化します。
イエスの顔のようにたとえ見えたとしても、それが神からの”ポジティブな”メッセージだと受け取るのもまた勝手なものだなとも思いますが…。
結局逮捕されるミンチャンでしたが、ここで再び独房の壁に浮かび上がった”顔”を見るのでした。
その”汚れ”を消そうとするという行動より、彼の中で葛藤があるのだとわかりますので、彼が今後自らの過ちを認めて立ち直る可能性を示唆していると私は思えました。
しかしなかなか汚れは消えませんので、それが長い道のりになるかもしれません。
ミンチャンはわかりやすい形で自分の「感情」を歪ませますが、ヨニの場合は妹を助けられなかったという罪悪感を”妹の幻影”として常に見ています。
一方の犯罪者ヤンレもまた、過去の虐待が自分自身そのものの判断力を失わせている…、そんな三者三様の心の自己防衛の様を描いていて興味深く思えました。
ということで、作品自体は割とストレートなお話で強いヒネリもなくて観やすかったかなと思えました。
最後に専門家の人がヨニに言ったセリフこそが今作のまとめになるように思えました。
気になった方は一度観てみてください。